通貨の価値は誰が決めるか?

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通貨の価値は誰が決めるか?

通貨政策は「財務省の役人」が担っている

私が為替介入をした当時、介入をするかどうかは旧・大蔵省の国際金融局長と財務官、為替資金課長に任されていた。
「宮澤喜一さんをはじめ、当時の大蔵大臣には事前に必要に応じた介入の了解を得ており、いつ、どれだけの規模で介入するかなど、すべてを決めることができた。
特に宮澤さんはそういうことをわかっている人だった。

介入をすることは関係者以外にはほとんど知らせない。
私は出勤途中の自動車の中や、海外出張中に介入を指示したこともあった。
「当時、アメリカの財務副長官だったローレンス・サマーズとは週に2~3回は連絡をとり合い、情報交換をしていた。
私が「ミスター円」と呼ばれるようになったときには、「俺はミスタードルと言われたことはない」とからかわれた。
8年の円高是正は彼の協力あってのことだから、言い分はもっともである。

G7、G8などの会合には私たち役人も同行し、各国の財務大臣や財務官、財務次官などとコンタクトがとれる。
各国とも為替介入などを決めるのは次官なので、彼らと連絡をとって、「円ドルで介入するけれどもドイツマルクはどうする?」といった話をしている。非常にクローズドなサークルである。

G7の会合は年間に4~5回あったため、みな個人的によく知っているし、いつでも電話がかけられた。そのころのメンバーとはいまでも仲がいい。
ECB(欧州中央銀行)の総裁マリオ・ドラギは当時のイタリアの次官だし、その前のジャン=クロード・トリシェは、フランスの財務次官だった。
私が財務官のときには年間140日程度は海外にいた。
1回の出張が3~4日で、1年のうち1カ月間は飛行機に乗っていることになる。
ひどいときは、時間がなくて空港そばの会議室で会議をし、そのまま帰ってくることもあった。財務官とはそういうポストである。

「大変なこともあるけれどそれなりに面白く、中央銀行も通貨当局もお互いに非常に親しい。
しょっちゅう話しているので、誰が何を考えているかはわかっており、想定外ということはない。
マーケットが予期しないようなことをやるときには、事前連絡をする。
どうしても伝えられないこともあるかもしれないが、信頼関係が重要であり、隠し合って手の内を明かさないような情報戦はしない。
裏をかけば、結局、しっぺ返しがあるからだ。

ディーラーを集めて、「マーケットの声」をつかんだ

私が介入に携わったのは国際金融局長の2年、財務官の2年、合わせて4年間だ。
どれだけの情報を得て、どの程度の決断力があるかは役人の能力次第で、それは通貨政策にも影響する。
海外の役人だけでなく、日銀総裁との連携も重要だし、マーケットの人とどれだけ親しいかも重要である。
私が局長のときには、毎週木曜日、局長室に為替のディーラー十数人に集まってもらい、情報交換や議論をする場を設けた。
誰がどう売っているのか、ヘッジファンドはどう動いているかなどは役所にいてはわからず、現場の情報が必要である。
マーケットで何が起きているか、彼らがどう考えているか、どういう手を打てば彼らが考えていることを変えられるか、そういうことを議論するのである。

マーケットには経済、政治、ありとあらゆることが反映され、想定外のこともしょっちゅう起こる。
役人としての通貨の見方と、マーケットに参加している人の通貨の見方、また持っている情報ももちろん違う。
ディーラーはそのときの流れに応じて、取引をするのが仕事なのに対し、私たちは流れを変えたいと思っているのだから、発想が全然違うのだ。
その集まりはいまでも私のオフィスで続けており、ときどき、財務省国際局の人たちも来て議論している。
為替に限らず、役所と民間の連携プレーは非常に重要である。
国債市場も為替に深く関係しており、国債課など、役所内のつながりも欠かせない。

「名目為替レートだけでは「真実」が見えない

日本は深刻な円高に見舞われているかのように言われているが、「大した円高ではない」というのが私の見方だ。
「テレビや新聞で報じられるのは、市場で取引されている実際のレート「名目為替レート」だが、為替水準を表すレートには、ほかに一定の要素を加味して計算した「実質実効為替レート」などがある。
名目為替レートでは、2011年に戦後最高値を更新するなど、たしかに円高の状態にある。
「しかし「実質実効為替レート」で見ると、それほどの円高ではないというもう一つの事実も認識すべきだろう。